Blitz Gallery updated 2017-10-30

Past Exhibition

トミオ・セイケ写真展
「Charleston Farmhouse」
(チャールストン・ファームハウス)

2011年 9月2日(金)~ 11月19日(土)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 日・月曜日 / 入場無料


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ⓒ Tomio Seike

欧米のアート写真シーンで活躍中の写真家トミオ・セイケの新作写真展「Charleston Farmhouse」です。
チャールストン・ファームハウスは、英国イングランド南西部イースト・サセックス州にある農家。1905年から第二次世界大戦期まで存在した英国の芸術家、学者からなる(*1)ブルムズベリー・グループの郊外の住居、集会場だった場所として知られています。同グループは、作家ヴァージニア・ウルフとヴァネッサ・ベル姉妹を含む、ケンブリッジ大学生により結成された非公式な会合がきっかけで始まります。彼らは、平和主義、左派自由主義の信念を持っており、第一次世界大戦の戦火を逃れてロンドンからサセックスに移り住みます。当時、この地域は文化の中心地だったパリなどとつながる英国側の交通拠点でもあり、自由を求めるアーティストたちを引き寄せたと考えられています。

今回、セイケが撮影したチャールストン・ファームハウスは、アーティストのダンカン・グラントとヴァネッサ・ベルが1916年から約半世紀以上に渡り生活していた農家です。彼らは農作業や作家活動の傍ら、イタリアのフレスコ画、ポスト印象派絵画の影響を受けながら、洋服、織物類、タイル、壁などのデザインを行ってきました。
現在でも、この家は二人が生活していたままの状態で保存されて一般公開されています。室内には花瓶などの陶器、(*2)オメガ・ワークショップのユニークな置物、小物類が残されています。それらコレクション類と、彼らの手による壁などのデコレーションとが相まって、インテリアは南欧的な独自テイストにコーディネートされています。アート・コレクションには、パブロ・ピカソ、オーギュスト・ルノアール、ウジェーヌ・ドラクロワなどがあり、彼らの欧州作家との交流の痕跡が感じとれます。彼らの活動は、次世代のアーティスト、デザイナー、工芸家の創作活動に多大な影響を与えており、昨今の現代工芸の復興では、多くの一流デザイナーたちがこの農家のインテリア装飾の影響を受けたと語っています。
通常、この家の内部撮影は厳しく制限されています。しかし、セイケは管理するトラストに許され、2008年から2009年にかけて撮影を行っています。アーティストたちの歴史的住居を管理する組織であるがゆえ、その場所がアート写真界で活躍する写真家の作品として提示されることに抵抗がなかったのでしょう。

現在の日本は、不況がずっと続く中で今回の大震災の影響もあり、ライフスタイルの選択肢がとても少なくなっています。将来のヴィジョンが描けない中、不安からかつての共同体の匂いを求める動きも見られます。生き難い状況は、もしかしたらヴァージニア・ウルフとヴァネッサ・ベル姉妹が生きた時代に似ているかもしれません。本作でセイケは、社会の趨勢に背を向けてチャールストン・ファームハウスで創造的なライフスタイルを追求した人たちの精神を提示しています。彼は、厳しい状況の現在の日本でも、個人が少しばかり強くなり、また同じ志を持った仲間がいれば自由に自分らしく生きる選択肢が見つかるかもしれないことを私たちに示しているのではないでしょうか。

本展では(*3)デジタル・アーカイバル・プリントで制作されたモノクロ作品約25点が展示されます。

(*1)ブルムズベリー・グループ
1905年から第二次世界大戦期まで存在した英国の芸術家、知識人、学者からなるグループ。19世紀の古い道徳観念に批判的で、新時代にふさわしい自由な文化を探求しようとしました。ロンドンのブルームズベリー地区でのケンブリッジ大学の友人の集まりがはじまり。第一次大戦の開始後、同グループの多くの参加者は、当人の良心に基づく信念で兵役を拒否する「良心的兵役拒否者」の立場をとり、農家に従事するためにイースト・サセックスに移住しています。メンバーには、経済学者ジョン・メイナード・ケインズ、作家ヴァージニア・ウルフ、画家ダンカン・グラント、画家ヴァネッサ・ベル、伝記作家リットン・ストレイチー、美術評論家・画家ロジャー・フライ、作家デイヴィッド・ガーネット、作家E・M・フォースターなどがいます。

(*2)オメガ・ワークショップ
ブルムズベリー・グループのメンバーで美術評論家・画家ロジャー・フライが1913年に設立したデザイン工房。作家が副収入をえる手段として、アートと装飾品との融合を目指し高級な家具、織物、小物類を制作しました。ヴァネッサ・ベルやダンカン・グラントも所属。
工房は1920年に解散しますが、オメガは20年代のデザインに大きな影響を与えています。

(*3)デジタル・アーカイバル・プリント
写真家、専門家による厳しい管理下で、使用インク(顔料系)や無酸紙にこだわり、高品位インクジェット・プリンターで制作されるデジタルプリントのことです。銀塩写真なみの耐久性があると言われています。


トミオ・セイケ・プロフィール

トミオ・セイケ(清家冨夫)は1943年東京生まれ。欧米の主要アート・ギャラリーのハミルトンズ(ロンドン)などと契約し写真展を定期的に世界中で開催している数少ない日本人作家です。
会社員を3年経験後、1970年に日本写真学園を卒業しています。アシスタントを経験後、1975年からフリーランス写真家、その後イギリスに渡り1987年以降は東京とブライトンに居を構えています。現在は写真展、写真集を通しての作家活動のみを行い、商業写真は行っていません。
1982~1987年に取り組んだ「ZOE」シリーズで作家として注目されます。ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーで初公開されて以降、ハミルトンズ(ロンドン)、ウェストン・ギャラリー(カーメル)、ツァイト・フォトサロン(日本橋)、コウジ・オグラ・ギャラリー(名古屋)、ギャラリーf5.6(ミュンヘン)など世界中で個展が開催されています。
その後、「Paris」1992年、「Waterscapes」2003年、「Glynde Forge」2006年、を相次いで発表し作家の地位を確立させます。欧米写真の伝統を踏まえた上に日本文化のエッセンスも感じさせる優れた作家性、卓越した撮影テクニック、自らがプリントする高い完成度の銀塩写真で世界中のコレクターを魅了し続けています。またほとんどの作品がライカで撮影されていることからカメラファンからも熱烈な支持を得ています。
最近はアートとしてのデジタル写真の可能性探求にも積極的に取り組んでいます。2011年秋にはロンドンのハミルトンズ・ギャラリーで、デジタルカメラによるカラー作品の個展を開催予定です。
作品は、ヒューストン美術館、サンタバーバラ美術館、ヨーロッパ写真美術館、フランス国立図書館、ラザール・ナショナルバンク、エルトン・ジョン・コレクション、エルメス財団パーマネントコレクション等に収蔵されています。